第16回目はBetty Carter(1929-1998)です。
M.Gridleyというミュージシャンがジャズの歴史について著した“Jazz Styles”という著作。
これまでに5カ国語で翻訳され、私の手元にあるのは2012年に発行された第11版なのですが、そこに紹介されているヴォーカリストは、ブルースシンガーのベッシー・スミス、このブログでも紹介したビリー・ホリデイ、サラ、エラとベティ・カーターだけでした。
その中でベティは、スリリングな演奏スタイルで、ミュージシャンやシンガーから最もリスペクトされていたジャズ・シンガーだと紹介されています。
今回は、手元にあった23枚のアルバムを年代順に聴き、お勧めをセレクトしてみました。
彼女の初期のアルバムは、サラのような深い声を響かせて、比較的素直なフレーズで歌っているのですが、私が聞いた限りでは、60年代中期頃から個性が炸裂しはじめる感じです。
例えば1979年に録音されたライブ盤“The Audience with Betty Carter”。
その1曲目‘Sounds’ では、ミュージシャンにソロ回しせずに、所要時間25分のうち23分間ひたすら一人でスキャットしまくっていました!
バラード‘Spring Can Really Hang You Up The Most’ では、原曲のメロディを崩しすぎてて、歌詞やコード進行を注意して聞いてないと何の曲か聞き取れなかったり・・・。
・・・といった具合なので、彼女の歌は好みが分かれるのではないかと思います。
即興性豊かで器楽的な彼女の歌唱法を味わうには、良く知られたスタンダード・ナンバーをどんな風に歌いこなしているのか、聞いてみるのが一番。
1976年録音のライブ盤“ I Didn't Know What Time It Was”(リリースは1994年)は、タイトル曲をはじめとしてスタンダード・ナンバーが数多く収録されていてお勧めです。
・・といいながら、彼女のオリジナル曲も私は大好き。
このアルバムに収められた‘Tight’ や先ほど紹介した‘Sounds’は超カッコいいですよ
次のお勧めは1993年のライブ盤 “Feed the Fire”。
ミュージシャンはピアノがジェリ・アレン(Geri Allen)、ベースがデイヴ・ホランド(Dave Holland)、ドラムがジャック・ディジョネット(Jack DeJohnette)という素晴らしいメンバーです。
ベースとのデュオやドラムとのデュオの曲があり、ヴォーカルと楽器とのインタープレイのお手本をじっくりと聞くことができます。

今回はいずれもライブ盤をお勧めしましたが、ライブでの演奏だからこそ、彼女の歌にあわせてバックの演奏が刻々と変わっていく、即興性にあふれたジャズ・ヴォーカルの醍醐味を堪能できるのではないかと思います。
さて、これまで16回にわたって、はじめてジャズ・ヴォーカルを聴く方にお勧めしたいアルバムをご紹介してきましたが、お楽しみいただけましたでしょうか?
専ら私が聴きこんでいるヴォーカリストが中心でしたが、クリス・コナーやメル・トーメなど、この機会にまとめて聴くことができたヴォーカリストも何人かいたので、私自身もとても勉強になりました。
次回からは、ジャズ・ヴォーカルの名盤と呼ばれるアルバムや名演と呼ばれる演奏の聴きどころ−こんな風に聴くと面白いですよ−といったところを、ジャズ・ヴォーカリストなりの視点で、またご紹介していきたいと思います。
お楽しみに!

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